サブプライム −29年代恐慌より大きい世界的信用危機

1.経過
アメリカ発のサブプライムの焦げ付きは、アメリカのみならず世界の金融・資本市場に激震を走らせ、世界に冠たる銀行や証券会社を破綻させている。
昨年7月からの主な破綻は次の通りである。

2007年3月3日 米住宅ローン 高金利型焦げ付き急増
7月11日 米サブプライム担保証券 大量格下げ
8月3日 米不動産投資信託(REIT)大手、アメリカン・ホーム・モーゲージ・インベストメント、米破産法の適用を申請
8月21日 米住宅ローン会社ファースト・マグナス・ファイナンシャル(非上場の住宅ローン会社では米最大手)破産
8月23日 米住宅ローン会社、次々と経営破綻
8月26日 ドイツの州立銀行最大手、バーデン・ヴュルテンベルク州立銀行(LBBW)がザクセン州立銀行(LB)を買収
10月4日 英中銀(BOE)、英中堅銀ノーザン・ロックへ救済融資
2008年2月17日 英ノーザン・ロック国有化
3月16日 米証券第5位のベアー・スターンズ、JPモルガンに買収される。
7月11日 米住宅ローン大手 インディマック・バンコープ破綻、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下
9月7日 米政府 住宅公社(ファニーメイ、フレディマック)2社を政府管理下に
9月15日 米証券第4位のリーマン・プラザール破綻
9月15日 米証券第3位のメリルリンチ、バンク・オブ・アメリカによる吸収合併
9月16日 米連邦準備理事会(FRB)、AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)融資救済

2.「サブプライムローン」問題の位置付け
(1)サブプライムローンとは、米国の信用力の低い個人向けの住宅融資のことだが、それ自体としては特に問題があるわけではない。信用力が低い個人に融資するわけだから融資した元利が返済されるかどうかをきちっと見定める審査力があるかないかだけのことである。
(2)ところが「サブプライム問題」となると様相が一変する。
 「サブプライムローン」の焦げ付きの急増を契機とする「サブプライム問題」は百花争鳴である。
 「住宅ローン担保証券の流動性の低下や価値の下落で、資金繰りに窮し純資産が大幅に減少した金融機関は、借り入れや外部資本調達が出来ず、事業の縮小や退出を迫られた。」(清滝信宏米プリンストン大教授)
 「古典的なバブルの生成と崩壊だ。金融市場が発展して資本が増大し、金融技術が進歩すればするほど、バブル発生と崩壊は恒常化し、金融市場の本質となる。」(小幡績 慶応大准教授)
 「考えの及ばないリスクをヘッジしきれずそれが顕在化したため。」(桜川昌哉慶応大教授)
 「人々は発生確率を予測できない不確実性に直面して最悪のシナリオ(現金が得られない)を想定して行動する。」(竹森俊平慶応大教授)
 「証券のフェア(公正)な価格付けへの信頼を支える仕組みが崩れたためだ。」(西村清彦日銀政策委員会審議委員)
 「原債権自体のリスク評価が不適切だった。」(久恒新早稲田大客員教授)
 「リスク再評価過程。」(高木信二大阪大教授)
等々である。

3.二つの市場
 「サブプライムローン問題」が発生した市場は、二つの市場からなっている。
 「サブプライムローン問題」が発生する以前の不動産ローン市場は、貸し手(銀行)と借り手から成り立っている単純明快な市場であった。
  しかし、「サブプライムローン問題」の場合は、絡み合った二つの市場という特徴をもっている。一つ目の市場は、以前と同じように住宅ローンを販売する市場、二つ目は、住宅ローンを証券化して、証券を投資家に販売する証券化市場である。
そして、二つ目の市場の登場と発展がサブプライムローンの焦げ付き急増を契機に「サブプライム問題」が世界に影響し、金融市場に激震を走らせ、29年大恐慌よりも大きい信用不安を醸し出したのである。
(1)住宅ローン市場 
一つ目の住宅ローン市場に登場する主なものは、住宅ローン会社(銀行)、信用力の低い個人、ローンブローカー、不動産鑑定士、不動産業者、建設業者等である。
ローン会社には消費者金融業からスタートしたものもある。信用力の低い個人には立派な市民の他、詐欺師、客引き、悪党、等さまざまな人々が登場している。貸し手側には、ローン会社の販売員、ローンブローカー、不動産鑑定士、不動産業者等さまざまであるがローンが成立してはじめて収入となる歩合制となっている。
ローンの元手は銀行・投資家からの期間の短い借入金だが、中小のローン会社は大手のローン会社にサブプライムローンを転売、大手ローン会社は投資会社を利用してローンを束ねて証券化するためにサブプライムローンを積極的に買ったのである。
大手のローン会社がサブプライムローンを積極的に買うので、第一市場の登場人物は、ローンを積極的に売りまくったのである。
建設業者は、需要の拡大により住宅を積極的に建設し続けたのである。
サブプライムローンの多くは、当初2−3年の固定の低金利終了後は金利が上昇することとなっているが、住宅価格が上昇していたので金利上昇による借金地獄は顕在化しなかった。
借り手は住宅価格を担保にローン増やして借り替え、増やした分を消費に回していたのである。
貸し手も住宅価格が上昇すれば、誰に貸しても住宅を差し押さえて競売すれば貸し金を回収できるのでノーリスクで収益をあげることができた。
ほとんどのローンがまともな所得審査もなく安易に貸し付けられた。実勢価格以上の融資も多く、中にはあからさまな不正もあった。住宅価格上昇がサブプライムローン拡大の必要不可欠な条件であった。
しかし、金融の引き締めに伴い住宅価格の上昇が止まるとローンの焦げ付きが発生し、住宅需要が縮小して住宅価格が下落した。すると更にローンの焦げ付きが拡大する 住宅需要が縮小して価格が下落する、という上昇の場合とは逆のスパイラル現象が生じた。
住宅建設は過剰建設となり、建設業者は倒産の憂き目を味わうようになった。
岡本磐男東洋大名誉教授は「ちきゅう座」のサイトで「サブプライムローンの問題の本質は、低所得者向けの住宅という投資財商品の過剰生産である」と実体市場を重視しておられた。
したがって、「サブプライムローン問題」の解決は住宅の過剰生産の解消による需給バランスの回復ということになろうが、世界的信用危機の説明としてはやや弱いように思われ、資本主義一般にあてはまる市場均衡の見方のように思われる。
これに対して、「サブプライムローン問題」は、住宅ローン債権の流動化の仕組み等(第二市場)にある とする声は強い。
(2)証券化市場 
二つ目の市場に登場する主なものは、銀行、住宅ローン会社、証券会社、格付会社等である。第一市場の貸し手も兼ねる大手の銀行、住宅ローン会社等は証券化のための別会社を設立して、多数のローンを担保としてまとめて、配当の優先順位を数段階に分けた住宅ローン担保証券として発行した。そして、その証券の購入者は投資家の好みに応じてリスクや収益の異なる金融商品と組み合わせて住宅ローン担保証券として再発行した。さらに、再発行された証券も他の金融商品と組み合わされて住宅ローン担保証券として再々発行されるということが繰り返されたが、それらの証券には銀行による流動性補完、保険会社などによる信用保証が付けられた。
格付け会社によって流動性補完や信用保証の情報に基づいて格付けされた証券は、価格をつけて世界中に販売された。
高木信二大阪大教授は、サブプライムローンのうち問題化しているのは約15%程度(2千億$弱)で、世界の金融市場の規模からするとたいした額ではなく、全額が回収不能というわけでもないという主旨のことを述べていた。
にもかかわらず国際金融・資本市場が動揺したのはサブプライムローンを組み込んだ各種証券の価格が信頼できなくなったからであり、格付会社の格付けが信頼できなくなったからである。
しかし、世界に広がった何層にも重なっている証券の価格の見直しは、第一市場のように原資産に戻って価格を見直すのが極めて困難である。
  西村清彦日銀政策委員会審議委員は「問題解消には、価格付けを支える十分な情報が明らかになる必要がある」と主張するが、価格付けのための十分で正確な情報を収集することができるのかどうか、また、その時間的余裕があるのかどうか を考えると一般的すぎるように思える。

4.世界的広がりと歴史的意義
(1)世界的広がり 
アメリカのサブプライムの焦げ付きが世界的規模に発展した背景は、不動産の証券化・金融化であろう。
投資ファンドが保有証券を担保として多額の借り入れをしていたが、保有証券の担保価値が下落したため借入金返済に資産を売却しなければならなくなった。その結果、保有証券の価値も売却資産の価値もさらに下落するという下落のスパイラル現象が金融市場を覆って、資金の貸し手も証券の買い手もいなくなり世界的信用危機が起こったのである。証券の買い手からすると証券化、再証券化される過程でリスクが不明確になっている証券の価格がどこにあるのか不明になった証券の取得は危険極まりないからである。
その結果、資金の供給が縮小して短期金利が急上昇し、欧米の中央銀行は巨額の短期資金を市場に供給せざるをえないような世界的信用危機が発生したのである。
(2)歴史的意義
  @ 米国の投資銀行の解体再編を迫った。
世界的信用危機は、「安く買って、高く売る」という裁定型金融「ビジネスモデルが終焉しつつある」(池尾和人慶応大教授)ことを意味する。
世界的な金融市場の自由化が始まった1980年代以降、米国の投資銀行は資産価格の歪みに着目した裁定取引というビジネスモデルに立脚して巨額の利益を上げてきた。また、このビジネスモデルの発展は取引対象とならなかった種々のリスクをも取引対象としてきた。
しかし、裁定取引の成功と発展は資産価格の歪みを縮小して、金融市場の効率化をもたらし、自らの収益機会を小さくしてきた。だが、高収益を求めなければならない状況のなかで裁定取引は、「安く買う」ために売り手に適切な情報を与えず、「高く売る」ために金融商品や取引内容を複雑化してリスクを過小評価するというような不公正な取引がみられるようになってきた。資産価格の歪みから利益を得るのではなく、利益を競合他者等から求めるようになってきた結果他者に対する疑心暗鬼により裁定取引が縮小してきたのである。
世界的信用危機は、米国の裁定型金融ビジネスモデルの終焉を意味し、それに立脚して巨額の利益を得てきた投資銀行の解体再編をうながすものとなった。
  A 今回の世界的信用危機は歴史上類例をみない危機である。
1930年代の大恐慌時代には、米国で倒産した金融機関は中小の脆弱な金融機関で、リーマンのような巨大な金融機関が突然倒産することはなかった。
大恐慌では米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和で事態が収束に向かったが、現在の信用危機は、FRBの歴史上類例のない強力な金融緩和にもかかわらず事態が収束に向かっていない。銀行、証券、保険会社等は短期の負債をかき集め、住宅ローンのような長期でリスクの高い資産に投資することで大恐慌の時よりも巨大ではあるが危険で脆弱な金融機関と金融市場をつくりあげた。
株式は、実体市場を基軸とする資本主義を発展させてきた。これに対して不動産証券は、巨大で複雑な金融市場を形成して「資本主義が金融資本主義になったのか。」(行天豊雄国際通貨研究所理事長)といわれるように実体市場を支配する巨大な市場になった。そして、金融市場でいま起こっていることは、市場シグナルさえ信頼できないようになってきた大恐慌以上の信用危機である。

5.当面の解決策
世界的信用危機の中心は、サブプライムローンを構成要素としている証券が第二市場で価格がつかないことであろう。
したがって、証券の価格付けができるかどうかが僅々の解決策となろうが、証券に価格がつかないのは第一市場におけるサブプライムローンの焦げ付き急増を契機としている。したがって、国家としての対策は、証券の価格付けとローン焦げ付き対策が喫緊の対策となるが、サブプライムローンのうち問題化している15%、2000億$を買い取り総額の参考として、次のような対策を実施することであろう。
第一は、第二証券市場における証券の元証券を、元証券の当初価格の60%程度を目途に、期限をつけて、買い取る。
金融取引による税優遇措置は廃止する。
第二は、サブプライムローンの破産者の住宅を取得価格の60%程度で競落して、破産者に賃貸住宅として貸し出す。そのために米国版「住宅公団」を作る。
第三は、公定歩合を元の5%にできるだけ早く段階的に戻す。レバレッジをきかして金儲けする機会を小さくするためである。
第四は、公定歩合の上昇によって負担を強いられるローン債務者には事情を考慮して有期の利子補給を行う。
第五は、米国の中小業者、商業者には有期の減税対策を行い、実体経済に及ぼす影響を最小限にとどめる。

政府では、公的資金(税金)7000億$を追加導入して金融機関を救済する案が検討・可決されようとしているが、そのことによって証券の価格付けができ、危機が収束に向かうかどうかは疑問である。又、米公定歩合のさらなる切り下げ案も浮上しているようだが、税金をジャブジャブ投入してもこの間の信用収縮で損失を被ったウオール街の面々の尻ぬぐいにはなっても金融危機の本質的解決につながる喫緊の解決策になるとは思われない。
半強制的買い上げによる価格付けは、ウオール街に巣くう魑魅魍魎達が手にした甘い蜜をはき出させ、第一市場と第二市場の健全さを取り戻すための中長期的解決策に結びつくことを目的とするものである。

2008.10.4