サブプライムローン問題とは何か

東洋大学名誉教授 岡本磐男

 昨年夏よりアメリカの低所得者向け住宅ローンとしてのサブプライムローンなるものが破綻して、世界の金融市場を混乱に陥れていることが話題となっている。
 メディア情報によれば、住宅ローンを担当している金融機関がそのローン(貸出)債権を証券化し、小口の証券として他の金融機関や投資家に売却してきたが、住宅ローンの借手が返済できなくなると、その証券価格が下落し、金融機関・投資家は損失を招く。その金融機関・投資家とは単にアメリカ国内のそれにとどまらず、海外諸国の金融機関・投資家をも巻きこんでいるので、証券価格下落による損失の問題は国際的に拡散している。こうした証券は投資信託にも含まれているといわれるが、金融機関・投資家がこのようなリスクのある証券を購入してきたのは、一流の格付機関ですらこれを信用のおける証券として価格保証してきたためであろう。
 ところがアメリカで住宅バブルがはじけて住宅ローンの返済が不能な人達が続出するようになった。そのため国際的に金融機関・投資家が深刻な損失を招くようになったため、株式市場ではしばしば株価崩落の現象が生ずるようになり、短期金融市場でも信用逼迫の現象がもたらされるかにみえた。そして現象的にはあたかも国際金融恐慌が1〜2年先には発生しかねないというような予想すら人々にもたれている。
 ここでは、ひるがえってサブプライムローンとは何かの問題について追求してみたい。というのは、メディア情報などでは、この問題を国際金融市場や金融システムの不安定性をもたらすものとして、金融的側面に力点をおいて捉えているように思われるからである。けれども金融システムの不安定性の発生は、実体経済面での再生産の円滑な進行の阻害要因を反映することによって発生するものである。すなわちアメリカの実体経済の方にこそ不安定性を惹起した根本的要素があると捉えらるべきだあろう。
 昨年夏以降、米国国民の生活を脅かしはじめた要因の一つは原油高騰であるが今日のそれはサブプライムローン関連の証券に融資されていた投機マネーが逃げ出しこれが原油に投下されるようになったことが最大の理由であることは周知のところであろう。一般に米国民は週一回は自動車でスーパーに買物に行く生活をしているので、原油高ーガソリン価格高騰ーは直接に生活を直撃するのである。さらに米国民の20%以上を占める低所得者層の人々は、住宅バブルがはじけ、ローン返済が不可能となったが金融機関から厳しい取立てにあうため困窮化し危険な状況に陥る人も少なくないようである。以下この点に焦点をあてて述べるとしよう。
 実体経済面でこうした現象が生ずるようになったのは何故であろうか。
 低所得の勤労者向け住宅が売りに出され価格が高騰するようになるのは、10年程以前からであるといわれる。勤労者による需要が増えるようになったためである。だが貧困な勤労者は単に自分が居住するためにのみ住宅を購入したわけではない。住宅を購入しそれを他人に貸して家賃収入を得るという利殖のためにも購入した。住宅価格が上昇をし続けていく限りは、もし失敗したとしてもこれを売却すれば元手はとれるとふんで投機的に買付けたのである。
 なぜ貧困層の人々でもこうした投機が可能であるかといえば、アメリカの金融機関は、かなりの貧困者に対しても彼の購入した住宅を担保にすれば、その時価の相当割合の資金額を住宅ローンとして貸してくれるからである。それ故に中流階層以下の庶民であっても、二軒目、三軒目の住宅を入手することができた。(日本ではこうしたことが考えられないのは、金融機関が住宅ローンを借りている人に対し、二軒目の住宅ローンを貸出すというようなことは決して行わないからである)
 かくして2、3軒の住宅を購入した庶民層はその後はローンの返済に追われることになる。低所得者向け住宅ローンの金利は、それ自体当初は低利であっても漸次に高利になるように設定されているという。それのみならず二重、三重のローンを借りた者は利払いと元金の返済はかなり厳しくなり、借金地獄に陥ったようになるだろう。それでも勤労者の住宅価格が上昇傾向を辿っている時期であれば、住宅を買値よりも高く売却することによって危機を脱出できたかもしれない。だが昨年夏からのように不動産投資のバブルがはじけるようになり、住宅価格が低下するようになると、住宅ローンで買った持家を手放すとすれば莫大な損失を招くこととなろう。こうしたことが現在起きている悲惨な状況であろう。
 アメリカの住宅は、日本の場合とは違って100年から200年にわたって保有されるという。それ故それは耐久消費財というよりは投資財といった方がよいかもしれない。こうした住宅を供給する建築業者は、住宅価格の高騰が続くかぎり、需要があるとみなして住宅建築を続けるであろうが、しかしそうした建築ブームの過程はいつまでも持続するわけではない。借手としての庶民の住宅ローンの金利支払いが停滞するようになれば、需要は一挙に冷え込み、住宅価格は崩落するだろう。すなわち住宅は過度に建築されすぎたのである。かくして建築業者は住宅の生産停止(廃業)に追いこまれる。それ故サブプライムローンの問題の本質は、低所得者向け住宅という投資財商品の過剰生産であるといえよう。
 それ故、一方でサブプライムローン問題が世界経済に衝撃を与える因果系列を示すなら、アメリカ低所得者向け住宅の過剰生産→住宅価格の低落→住宅ローンの借手の元利返済不能→ローン債権が証券化されたその証券の価格下落→その証券に投資した投資家・金融機関の損失拡大ということになろう。他方でこの問題が米国経済に衝撃を与える因果関係は、低所得者向け住宅価格の低落→住宅ローンの借手の返済不能→住宅ローンの借手の生活困窮→アメリカの個人消費の減退→米国経済における不況発生ということとなろう。
 さらに付言すれば、アメリカで証券化されるローン(貸出)債権とは低所得者向けのローンのみならず、その他のローンも含まれるのであるが、こうしたその他のローンが証券化されたその証券もローンの支払い不能によって価格が下落しつつあるという。何れにせよ、アメリカの中産階級あるいはそれ以下の庶民層の人々が銀行からのローンによってはでに消費を拡大するような構図はも早失われたといってよかろう。そして金融機関からの厳しい借金の取立てによって、ホームレスに近いような生活、キャンピングカーでの生活を余儀なくされる人々も増えつつあるといわれる。
 2008年1月に入ってから1週間後には、アメリカの株式市場では株価が600ドル以上も崩落した。このサブプライムローン問題によって、個人消費の減退による米国経済の景気後退が見通されたためであろう。今後米国経済は多くの不確定要因をかかえているのでいかなる推移を辿るかは定かではないが、不況要因を抱え続けることは確かであろう。住宅市場での価格低落は数年以上も持続していくであろう。その回復には、例えば10年もかかるかも知れないからである。(比較する場合、問題がある点を承知でいえば日本のバブル崩壊以後、地価の下落は10年以上も続き、今日、大都市では地価の上昇がみられるとはいえ、地方では未だに回復していない点に注目したい)
 サブプライムローン問題の日本に対する影響はどうであろうか。日本でも2008年1月に移行後8日までの間に株式市場での株価は1000円以上も崩落した。数年間にわたる日本の景気回復は、主に米国、中国への輸出に依存したものであったが、今後は米国に対する消費財の輸出が落ち込むことは避けられないであろう。今年からの日本の景気減速は必至であると考えざるをえないのである。

2008.1.15