東京高裁は不当な鑑定評価を不当ではないとした

1.01年(S64年)に破綻した「大和都市管財」(大阪市)の詐欺事件にからみ、同社の抵当証券を買った顧客が「不当鑑定評価」として不動産鑑定士と不動産鑑定会社に損害賠償を求めた民事裁判で、東京高等裁判所は7月19日、損害賠償を命じた1審・東京地裁の判決を取り消し、元顧客の請求を却下した。

2.1審では、抵当証券発行の場合の抵当不動産の鑑定評価は、抵当不動産の競売代金が抵当証券購入者の最後のよりどころとなるため、不動産鑑定士は現実に買い手が現れる価格を正常価格として算定しなければならないにもかかわらず、被告不動産鑑定士は、需用者側(買い主)の事情を考慮した収益還元法を無視して、価格が高く出る供給者側(売り主)の都合だけを考慮した原価法だけで鑑定評価額を決定したことは、不動産鑑定士の専門的裁量の範囲を逸脱した違法なものであり、鑑定評価の専門家に求められる注意義務に違反している、として不動産鑑定士に損害賠償を命じた。
  つまり、被告不動産鑑定士の鑑定評価は不当鑑定評価であると判決したのである。

3.ところが、2審ではそれが逆転したのである。
  判決は以下の通りである。

(1)ゴルフ場の担保としての不適格性の有無(不適格の場合は鑑定評価を謝絶する義務があるという謝絶義務違反の成否)について
   原告は、ゴルフ場の土地建物は、市場性や流動性が低く、換価処分が困難だから抵当証券の発行対象として不適切な物件であるから、被告不動産鑑定士は鑑定依頼を謝絶すべきであったと主張したが、完成されたゴルフ場やリゾート案件が担保不適格不動産として排除されるのは日本不動産鑑定協会会長名による「抵当証券交付申請書添付鑑定書に係わる不動産鑑定士の留意点について」(H8年11月20日)以降であり、本件はそれ以前に鑑定依頼を受けたので被告不動産鑑定士に依頼謝絶義務を認めることが出来ない、とした。

(2)収益還元法を参酌すべき義務違反について
   原告は、鑑定評価が抵当証券発行のためであるから、市場性、流動性を重視した鑑定評価を行うべきにもかかわらず、鑑定評価は原価法のみによるもので収益還元法を適応せず、市場性、流動性を無視した鑑定評価となっており、鑑定評価手法適用についての注意義務違反あったと主張するが、不動産鑑定評価において利回り等が不動産評価のなかで固まって、収益還元法が実務に定着したのはH10年以降であったので、実務に定着していなかった収益還元法を採用しなかったとしても採用しなかったことに一定の合理性があり、専門家としての合理的裁量を逸脱していると認めることは困難である、とした。

(3)そして、訴訟費用は、1、2審を通じて原告負担ということで原告全面敗訴となった。
   しかし、納得しがたい原告は最高裁へ上告するとのことである。

4.ところで、原告は詐欺にあった被害者であり、大和都市管財等の倒産手続きによる弁済受領額が購入金額の8%程度であることを考慮すると、被告不動産鑑定士は、グルではないが詐欺会社の片棒を担いだのではないかと言われても仕方がないような鑑定評価を行って、損害を与えたのは紛れもない事実であるから、高裁判決に何か釈然としないものが残った。
  そこで原告側の主張に基づき高裁判決を検討してみることとした。

(1)ゴルフ場は担保適格性に欠けている、という原告側の主張について
   当該ゴルフ場自身が一度売買されたものであるから、この主張は初めから弱いと思われる。
   しかし、判決にも問題があるように思われる。
   判決は、抵当証券業を営む会社は、昭和58年以降、次々と設立され、抵当証券の販売額も急増したが、一方で「空売り」や「二重売り」による詐欺的行為が行われ、昭和61年頃、悪質な抵当証券会社が相次いで倒産して社会問題化したので、昭和62年12月15日、抵当証券会社の登録制度その他必要な規制を行って、抵当証券の購入者の保護を図るという趣旨の「抵当証券業の規制等に関する法律」が制定・公布された。同時に抵当証券発行の際の鑑定過大評価によるトラブルも問題となって、昭和62年に国会で審議の対象とされた、と過去の抵当証券をめぐる状況を述べ、平成6年11月18日付けの「市場性を欠く不動産は、担保としての適格性に欠ける場合が多い」という日本不動産鑑定協会と抵当証券業協会との共同の技術的研究成果である「抵当証券交付申請書添付鑑定評価に係る不動産鑑定上の留意点について」と題する鑑定協会会長名の通知を「本件鑑定当時、抵当証券発行のための鑑定評価をする際、不動産鑑定士が準拠すべき規範とされるもの」と総括している。
   とすると、被告不動産鑑定士は抵当証券発行を目的とする本件鑑定評価の場合、上記鑑定協会会長名の通知に則り、専門家としての相当の注意が求められていたこととなる。ましてや、山間部のゴルフ場などは取引が不活発で、わずかな数の鑑定が一部の鑑定士により散発的におこなわれてきたに過ぎないことを考えると対象不動産の担保適格性について相当の注意が求められていたのである。
   にもかかわらず、相当の注意が求められたのは「抵当証券交付申請書添付鑑定書に係わる不動産鑑定士の留意点について」(H8年11月20日)以降であり、本件はそれ以前に鑑定依頼を受けたので被告不動産鑑定士に依頼謝絶義務を認めることが出来ない、としてH8年以前は注意義務が無いかのような判決は、問題が残るように思われる。

(2)合理的理由無くして原価法のみによる鑑定評価を行って、収益還元法による評価を怠っているから、土地建物の時価が過大に評価され、損失を被った、という原告の主張について。
   高裁判決は、上記の通り、収益還元法が実務に定着したのはH10年以降であったので、実務に定着していなかった収益還元法を採用しなかったとしても、採用しなかったことに一定の合理性があり、専門家としての合理的裁量を逸脱していると認めることは困難である、とした。
   しかし、時価が過大に評価されたこと、その原因に、収益還元法を採用しなかったことに一定の合理性があったとしても、収益還元法の考え方を参酌しなかったことには問題が残ることとなろう。
時価が過大に評価されて損失を被ったということの原因は、収益還元法を採用しなかったことにあると言っても過言ではないだろう。被告不動産鑑定士は収益還元法による収益価格はきわめて低く出ることを予測していたので収益還元法を採用しなかったのであろう。ゴルフ場の鑑定評価は原価法のみで評価することが多いが、それは低く出た収益価格を参酌すれば、鑑定評価額は低くなり、依頼者の高く出してもらいたいという期待に答えられず、仕事にならない恐れがあったからであろう。
   判決は、収益還元法が実務に定着したのはH10年以降であったと述べているが、実務ではH10年以前においても収益還元法は適用され、参酌されていたこともあることを考慮すると、実務の経験を一方的に軽視しているように思われる。

(3)ところで、時価が過大に評価されたかどうかは、収益還元法の不採用という方式の適用の如何ということだけではなく、当該鑑定評価書が鑑定評価のプロセスの全過程を適正に実施しているのかどうかの問題である。
   不当な鑑定評価は評価のプロセスの過程で、あるところでは大胆に、あるところでは小さく実施することにより形成されていくのであるが、判決は当該鑑定評価書を実際にあたって検討したのかどうか、疑問に思われる。
   鑑定評価のプロセス、鑑定評価の手順は以下の通りである。
   鑑定評価の基本的事項の確定−処理計画の策定−対象不動産の確認(対象不動産の物的確認と権利の態様の確認)−資料の収集及び整理−資料の検討及び価格形成要因の分析−鑑定評価方式の適用−試算価格の調整−鑑定評価額の決定。
   そして、そのポイントは次の通りである。
 @ 鑑定評価の基本的事項の確定・確認では、対象不動産と他の不動産を明確に区別することであるので、鑑定評価の依頼目的及び条件に照応する対象不動産とその不動産の現実の利用状況とを照合して確認(対象不動産の確認)するという、実地調査等の実践行為を適正に実施していたかどうか。
   また、鑑定評価によって求める価格の種類は、正常価格、限定価格、特定価格があるが、担保として安全性を考慮することが特に要請される場合は特定価格を求めることとなるが、特定価格にしているかどうか。特定価格にしていない場合はその理由は何か。
 A 価格形成要因分析では、一般的要因を分析するとともに、地域分析と個別分析を通じて対象不動産の最有効使用を判定することであるが、鑑定評価にとって最有効使用の判定が必要不可欠である理由は、不動産の価格はその不動産の最有効使用を前提として把握される価格を標準として形成されるからである。したがって、不動産の最有効使用は必ず把握されなければならないこととなるので、当該鑑定評価書が最有効使用をどのように把握しているか。
   過去の不当鑑定評価は、地域分析の前提となる近隣地域や類似地域等の範囲に関する明らかな判断の誤りに起因するものが多くみられることから、地域分析にあたっての検討は、特に同一需給圏の範囲の判定の検討を慎重にしているかどうか。
 B 鑑定評価方式の適用は、案件に即して適切に適用すべきであるが、対象不動産の種類、資料の信頼性等により原価法、取引事例比較法、収益還元法の併用が困難な場合にもその考え方を出来るだけ参酌するようにつとめるべきである、とされているが本件の場合は収益還元法を回避していた。

(4)結論
   以上、簡単に原告の主張と判決を見てみたが、判決を鑑定評価のプロセスのなかで位置づけてみると、被告不動産鑑定士は専門家としての義務違反はないという判決とは反対に、専門家として誠実に鑑定評価の手順を踏んでいたかどうか疑わしいもの、となる。あるいは、高裁判決を認めるとしても、限りなく黒に近い灰色となるだろう。何故なら、鑑定評価の手順を誠実に踏んでいれば、著しく高い鑑定評価額が出る可能性は低く、一般投資家の被害を最小限にとどめることが出来たからである。
高裁判決の社会的意義は、被害を受けた多数の一般投資家の存在を無視したものとなっており、これから発生することが予想される不動産ファンド等の破産による一般投資家の救済にマイナスの影響を及ぼす可能性があり、心配されることである。
   なお、弁護団は、不動産の鑑定評価書が絡んだこの種の裁判では、不動産鑑定書を全面的に検討して、判決でも述べている「不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の裁量の余地がある」ことを突破して故意又は過失を立証するために、優れた不動産鑑定士のアドバイスを求めることを勧めたい。

06年7月25日